そのドアを開くと、そこは見慣れたいつもの教室だった。
「ん?あ、あれ?」
伊勢は第一試験の内容をイマイチ把握してないまま、このドアを開けた。
「10分以内にココから出ればいいって言ってたよな…」
とりあえず手近のイスに座りながら、ブツブツと独り言。まさに不安の表れ…。
「筆記…とか?まさか、そんなフツーな試験なわけねーか」
足を組んだ時、キィッとドアが開いた。入って来たのは…。
「あっ永井〜。お前あっちに行ったんじゃなかったっけ?オレら同じ部屋?」
伊勢はあからさまに嬉しそうな声を出す。一人ぼっちで何をすればいいのか分からないときに、誰か知ってる人が来れば誰だって嬉しい。それが永井だったからめちゃくちゃ嬉しいのだ。
「伊勢、そっち…行っていい?」
「あったりまえじゃん」
おいでおいでして、隣のイスを引いてやる。そんな伊勢を見て、永井はクスリと頬を緩めた。
「オレらって同じ試験なんかな?」
「さぁ…どうだろう」
伊勢の近くに来ると、永井はイスには座らず伊勢の腕を柔らかく掴み立ち上がらせた。
「えっ?なに?」
伊勢が言葉を言い終わるか終わらないかののうち、伊勢は永井にぎゅ…と抱きしめられていた。
「ごめん、怒らないで。…ずっと、ずっとこうしたかった。ごめん」
肩口で永井の切ない声がする。「ごめん」と2回も呟いた。何がなんだか分からない。伊勢はめまいがして、その場に倒れそうになった。
「愛情は伝わらなければ意味がないと、気づいたんだ…」
意を決したように永井はゆっくりと話し、体を少しだけ離して伊勢と目を合わせた。
「…え、えと、あの、その…」
情けない事に言葉が何一つ出てこない。それどころか、きっと今自分は顔も、たぶん耳まで赤いと思う。
伊勢はグルグルと回る頭で考える。
―――これって永井もオレのこと…
伊勢は永井と知り合った頃から、ずっと気になっていた。ハッキリ言って、恋愛感情アリの“好き”だった。
「伊勢ごめん…。悪いけど壊してしまう」
「な、永井…っ」
「ずっと…初めて会った時からずっとこうしたかった。…好きだよ」
永井の唇が近づいてくる。
―――壊されてもいい…友達が恋人に変わるだけじゃねーか…!
伊勢も意を決した。
「あ、あの、永井」
「ん?何?…伊勢、キスするの初めて?…大丈夫、心配しなくていい。オレが全部教えてあげるから…」
永井は伊勢の唇を親指でなぞり、そのまま顎を押して薄く唇を開けさせた。そして顔を少し右に傾け、さっきよりも距離を詰めて来る。
「だっ…ダメダメ!!」
伊勢は永井の胸を押した。
「伊勢…?」
「こ、ここじゃ、イヤだ…っ」
「え、いや、あの…伊勢?」
「ゆっくりと…お前を感じたいんだ」
伊勢はがしっと永井の腕を掴み、ズンズンとドアに向かっていった。
「ちょ…伊勢っ、伊勢ってば」
「……優しくしろよ」
かぁっと顔を赤くして、伊勢はドアを開けた。
(06.10.4)
おわり
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