andante 〜ほどよくゆっくり〜

 執行部の部室に鍵をかけて、二人は抱き合っていた。
 永井は床にあぐらをかいて座り、胸元に身体を預けてくる伊勢の頭を撫でながら、コイツには俺がいないとダメだな、なんて思っていた。
 しばらくすると伊勢がモゾモゾと動き出し、永井のシャツのボタンを外し始めた。
  「…なに? 犯りたいの、犯られたいの?」
 永井は静かに伊勢に問う。でも伊勢はその問いに答えずにボタンを二つほど外すと、肌蹴させて永井の小さな胸の突起を舌全体を使ってベロリと舐める。そして鎖骨あたりにきつく吸いついた。
  「ん…っ」
 伊勢の柔らかい唇が作り出すチリリとした痛みが、永井に甘い声を出させる。もうどっちでもいいか、なんて思いつつ伊勢に押し倒されるまま、床に寝転んだ。
  「その唇に言わせてえ言葉がある」
 言いながら伊勢は永井の乾いた唇を指先でなぞると、少し舌を出して唇を近づけた。深い角度で重ねてくる唇。永井は目を閉じ、その口づけを受け入れながら思う。
 伊勢の唾液はまるで媚薬。だって伊勢とキスをすると、ここがドコだったかなんて気にならなくなるから。
 伊勢の首に腕を回して、永井はもっともっとと貪欲にキスを強請った。



 伊勢の動きに合わせて、永井の声も途切れ途切れになる。伊勢の猛りが抜き差しされるたびに、腰の辺りから滲み出す鈍い快感が身体中に広がっていく。
  「っ…ぁ、ぁぁっ!」
 永井は胸を弓なりにそらし、快感に身を委ねる。
  「気持ちイイ?」
 伊勢の質問に、永井は言葉も出せずにただ喘ぐしかなかった。
  「足りない? じゃ、もっと気持ちよくしてあげる」
 奥へ伊勢が腰を沈めると、欲しがるように淫らな粘膜が収縮して、永井は伊勢のモノをすっかり全部飲みこんでしまった。永井は感じているのか、伊勢をきゅうきゅうと締め付けてくる。
  「ちょ…龍…っ、きっつ…い」
 腹に付くほど勃ち上がる永井自身を伊勢は掴んだ。幾筋も零れ落ちるぬめりを助けに上下に擦ってやると、快感を分散させられた永井はふっと力を緩めた。その隙を狙って伊勢が退くと、永井は一層喘いだ。内壁を逆撫でされるその快感を助けに、体の中で渦巻く欲望を今すぐ吐き出したい。
  「ぁぁぁ…っ、も、もうダメ…っ」
 脳天を突き破るほどの絶頂感が永井の身体の奥から沸き起こったその時、ドクドクと伊勢の手のひらに欲望の証を吐き出して、永井はぐったりとしてしまった。
 同時に伊勢は、ぶるっと身体を震わせて永井の奥に吐精していた。
  「あーあ…気ぃ失っちゃった」
 伊勢は、永井の頬に汗で張り付いた髪の毛をなで上げてやる。ずるりと永井から力をなくした自身を引き抜きながら、伊勢は、もうダメじゃなくてお前がいないと生きていけないとか言わせたかったのにと思う。
 乱れた永井の制服を直してやりながら、でも自分の方が永井がいないと生きていけないのかも、とも思った。

(07.1.8)



おわり


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