それは謎の水

 昼休みもそろそろ終わりそうな頃、裏庭で九澄が津川の顔を覗き込んでいる。
 九澄は、ドラッグメーカー部部長から廃棄するように言われた謎のペットボトルを持って裏庭に来ていた。ゴールド保持者とはいえ、まだ1年。こき使われることもこれが初めてではなく、少々愚痴りながら歩いていた。そのとき、いきなりトレードマークのスケボーで飛び出してきた津川が、九澄を避けようとして運悪く木にぶつかって目を回してしまったのである。
  「オイオイ津川、大丈夫か?…ったくしょーがねえなぁ」
 見捨てることもできず、九澄が津川の体を起こそうとしたとき、津川が目を覚ました。
  「う〜〜〜〜〜ん…」
  「あっ、オイ津川、大丈夫かよ?」
 苦い表情で起き上がり「たぶん…」と言うと、津川は九澄が手にしていたペットボトルを掴んだ。
  「ちょっとくれよ、あービビった」
  「わーこれは…!」
  「ん?」
 九澄は大慌てて取り上げたが、津川はあっという間にゴクリと喉を鳴らし、得体の知れない液体を一口飲んでしまった。
  「…なんか変わった味だな?」
  「そ、そりゃー…そうだろ……」
 噴きだすほど不味くなかったことに少々驚きを隠せなかったが、見たところそれほど変化はなさそうだし、命の危険に晒される事もなさそうだと思った九澄は、残りのものを早く処分して、津川にもし何か変化があった場合の証拠を隠滅しなくては、と考えた。いわゆる“野生の勘”というものが働いて、とにかく早いトコこの場を離れた方がいいような気がした。
  「じゃ、俺急ぐからこれで!後で教室でな!」
 そそくさと立ち上がった九澄のジャケットが、ツン…と引っ張られる。振り向くと津川がジャケットの裾を掴んでいて、もう片方の手で苦しそうに口を押さえていた。
  「……!つ…がわ?」
 やっぱり、というかなんと言うか。腹でも痛いのだろうか、蒼い顔をした津川は小刻みに震えて何も言葉を発さない。こうなったら知らん顔も出来ないと観念した九澄は、全てを白状しようとしゃがみ込んだ。…すると、いきなり津川は顔を上げて、九澄に飛びついてきた。
  「なー九澄!オレ、お前の言うことなんでも聞くぜ!なんでも言ってくれ!なぁなぁ!」
  「え、え、ちょ…ちょっと何?」
  「何でも!何でもいいから!早く言えよー!」
 押せ押せな津川に、九澄は辟易してしまう。すると、そんな九澄に対して津川はどういうワケか、ハッとして頬を染めた。
  「え、あの…今度は何デスカ…?」
 コロコロと表情の変わる津川に九澄は途惑う。
  「九澄…お前の言いたいことは分かった。だよなー…男だもんな…仕方ないな、どうせもうチャイムも鳴ったことだし、今からヤるか…」
 そう言うと津川は九澄を押し倒し、ズボンを脱がしにかかった。
  「ちょっ!こらこらこら!わっ、ちょ…っ、そんなトコ触るなっ、やめ…っ」
  「恥ずかしがらなくてもいいから!お前の言いたいことは分かってるって」
  「ワケ分からん!つーかお前、頭打ったか!?」
 言ってる間に津川は、途惑っている九澄自身を引き出し、口に咥えてしまった。
  「…っ…ぁっ」
 思わず洩れた自分の艶のある声に驚いて、九澄は我に返る。しかし間を置かず、次に津川はぬるりと舌を動かした。直截的な刺激に九澄の分身は、男なら当たり前の反応を示した。
  「んっ…ぐ」
 急に大きくなった九澄のものを口の中で感じて、津川は少し苦しそうな声を出した。
  「ご、ごめっ…」
 つい謝った九澄だったが、津川の矢継ぎ早の刺激に抵抗することもままならない。うっかり性的な快感に流されそうになり、慌ててまた津川の肩や頭を押す。津川は、さすが同じ男なだけあってツボを心得ている。次第に九澄の腕に力が入らなくなってきた。
 津川の口の中はとても温かくて、舌の上に乗せた九澄のものを舐めながら吸い上げる。茎の継ぎ目のところを唇で引っ掛けたり、舌で鈴口を撫でたりと容赦ない。おまけに口の中に入りきれない部分は、手で扱いている。
  「あっ…もうヤバイヤバイ!津川っ…離れろっ!出るから!」
 九澄が思いっきり腰を引いて津川から離れようとしたが間に合わず、九澄は津川の口の中で白濁を漏らしてしまった。
  「んぷ…っ」
  「…は……っ…わ……っ、すまん…っ」
 九澄は慌てて津川の口を袖で拭く。
  「いいよ、九澄のだし!」
  「津川…」
 ニッコリと笑う津川に、九澄は胸の奥に何かが芽生えるのだった。




  「…って、違う違う!お前どーしちまったんだ!?」
 和んでる場合じゃないと思い出し、九澄は津川の肩を掴みゆさゆさと揺する。どうしたもこうしたも、あのペットボトルの中身のせいでしかないと思うのだが。
  「九澄ー、もっとスる?」
 首を傾げ、天真爛漫な笑顔を見せて津川が言う。
  「もっと…、って……ナニを…でしょうか…?」
 蒼ざめた九澄が恐る恐る訊ねると、津川は何かを言おうと口を開きかけたが。
  「ナニって………う〜〜〜ん…」
 急にカクンと意識を失い、その場に寝転んでしまった。
  「うわーーー!つーがーわーーーーー!」


 それから1分ほどして目覚めた津川は、いつも通りの津川で、九澄に変わった味の水をもらった以降のことは覚えてなかったという…。

(07.3.14)



おわり

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