いっそ over dose

 油断した。しくじった。そんな言葉ばかり頭を過ぎる。


 いつものように通りかかった下級生に、やれ炭酸だの果汁100%だのと散々注文をつけてジュースを買いに行かせてた伊勢は、迂闊にもポケットからプレートを抜き取られ、魔法が使えない。
  「魔法が使えない伊勢なら、ちょろい」
 誰の声かよくわからなかったけど、体育館の倉庫に運ばれる途中、確かに聞こえた。ボコられるのかと思って返り討ちにしてやろうと構えたが、どうやらそうではないらしいことは、自分を囲む下衆の制服の股間あたりに変化を確認したことで分かった。
  「誰から?」
 下卑た笑いを含み、誰かが回りに問うた。捕まれている両手を振り解こうとする伊勢の目に、じゃんけんする数人の手が見えた。誰からでもいいけど満足させてくれるんだろうなと、言おうとしたがやめた。
 どうしようもないバカだといってもそこそこの魔法は使えるようで、さっきから急に体の自由が利かなくなったのは、きっと誰かがその手の魔法をかけたのだろう。 
 髪をつかまれて顔を上に向けさせられる。口に小さいカプセルを放り込まれて、無理矢理飲み込まされた。何のクスリなのか、飲み込むと喉がジンワリと温かい。
  「…噛むなよ?噛んだらプレート捨てちゃうぜ?」
 伊勢の銀色のプレートを人質ならぬ、プレート質にして自己防衛を図るなんて、絵に描いたような女々しさだ。そしてこいつのモノを口に銜えろということだと、伊勢はそのセリフで察していた。
  「うわ…こいつやっぱ綺麗な肌してんなぁ」
  「早く全部脱がしちまえよ」
 男らは、伊勢の制服を乱しながら興奮した声を上げる。誰かが伊勢は男でもその気になりそうだと言い出したのがきっかけで、そのうちに誰ともなく伊勢を輪姦そうということになったのだ。
 シャツを肌蹴けさせられ、ズボンは太ももの辺りまでずり下げられた。いよいよ下着に手がかかったとき、声がした。
 遠慮がちに、だけど凛々しくその声は響いた。
  「執行部だ…っ。そこで、何をや…っ!」
 永井だった。永井はあられもない姿で押さえつけられる伊勢を見て、目を見開き一瞬言葉を失った。
  「げっ」
 伊勢を押さえていた男が慌てて手を離した。
  「ケンカじゃないかという通報があって…」
  『ゲヒャヒャ テメーらソイツを輪姦そうとしてたんじゃねーのかぁ!?バレたら退学だけじゃ済まねーぞ!ブタ箱に入れられてホモのレッテル貼られて 一生生き恥晒しやがれ クソガキ共が!』
  「違う…っ…これはふざけてただけで…っ」
 やっと起き上がった伊勢は永井に、いや、ロッキーに向かってそう言うと、「プレート」と小さい声で男たちに言った。その中の一人が投げつけるように伊勢にプレートを返すと、たまらずにその場から駆け足で逃げていった。他の者も大慌てでそいつに続いた。
  「まっ、待て…っ!」
  「永井っ」
  「…伊勢、いいのか?」
  「ああ。別に何もされていない」
 シャツのボタンを留める伊勢に、永井は近づいてきた。
  「大丈夫…?」
 永井は立ち上がろうとした伊勢の背中の埃を払ってやった。
  「…ん」
 返事も曖昧にしたかと思ったら、伊勢はその場にうずくまる。
  「伊勢っ!伊勢大丈夫!?すぐ保健室に行こうっ」
  「や、っ…待って。違う……から。ていうか、…っ…もう…行って。一人に……して、くれ…っ」
 伊勢は息をするのも少し辛そうに見えたので、永井は拒否の意味を込めて首を大きく左右に振った。
  「何を言ってるんだ。…俺といるのは、イヤかもしれないけど、保健室までは、連れて行くから」
 今度は伊勢が首を左右に振る。だけど伊勢の場合はもう声を出せないみたいで、首を振ったようだった。あまりに伊勢が辛そうなので、永井は心配になりしゃがみ込んで伊勢の顔を覗き込んだ。
  「…伊勢、本当に何もされてないの?…って、おい、どうした…!?」
 永井が驚くのも無理はない。伊勢は頬を真っ赤に紅潮させ、瞳を潤ませ小刻みに震えていた。
  「ね、熱!?それとも、もしかして、アイツら魔法解除しないで行ったのか!?」
 先ほど逃げて行った男らを追いかけようとして向きを変えた永井は、コツンと何かを蹴った。コロコロと転がったそれは、伊勢のつま先に当たって止まった。
  「さっきの…これだった…っ、のか…っ」
 伊勢が足元に転がってきた小さなビンを見て呟いた。永井は眉を寄せてビンを拾うと、ラベルに目を通した。
  「な?保健室…なんか、…っ、行けねーだろ…?」
 自嘲気味に伊勢が言うと、永井は言葉を無くしたようで何も言わず俯いてしまった。
 ビンの中身は催淫剤だったのだ。さっき誰かが伊勢に無理矢理飲ませたカプセルと同じ物が、まだたくさん入っていた。
  「…俺に、できることは…?」
  「ねぇよ…」
  「じゃぁ…!じゃあせめて、お前が落ち着くまでここにいる」
  「め…っ迷惑!あのさ、…俺、今…ものすごくヌきたいわけよ…っ。お前がいたら、ヌけねーじゃん。それともお前が、手伝ってくれるとでも言うのかよ、バカ」
 いよいよ限界に近づいてきた伊勢は、いつまでも出て行かない永井に少々キレて毒づいた。
  「うん…いいよ」
  「…はぁっ?」
  「だって…自分でするより、気持ちイイだろ?」
  「…っ」
 永井は帽子を脱ぎ、伊勢の股間に手を伸ばした。




  「気持ちよかった…?」
 触れた途端、ドクドクと自分の手のひらに吐精してしまった伊勢に向かって永井は言った。
  「…う、うるせえっ!笑いたけりゃ笑えっ。早くどっか行けよっ」
 クスリのせいで普段よりも敏感になっているとは言え、あまりにも早く果てたことに恥ずかしくて、伊勢は素直になれない。それにまだ永井に気づかれていないようだが、普通に欲情したわけではなかったので、たった一度の射精じゃ体は到底鎮まるはずもなかった。伊勢のゴールはまだ遠い。早く永井にどこかに行ってもらいたくてイラついていた。
 それでも永井はまだ何か言いたげにしていた。
  「あの…伊勢」
  「あ゛あ゛!?」
  「…足りないんじゃない?」
 言うが早いか永井は伊勢に圧し掛かり、文句を言おうとしていた伊勢の唇を塞ぐ。左手で伊勢の股間に触れ、もう既に熱が集まっていることを確認して唇を離す。
  「伊勢…もっと俺を欲しがって…」
 語尾を甘く掠れさせ、伊勢のもので濡れた指先を蕾にあてがう。
  「ぁ…、や…っ、永井っ」
  「ヒクヒクしてるよ…伊勢のココ」
 言うと永井はグッと指を挿し込み、精液を襞に塗りつけるように指をくるりと回転させた。1本、2本と少しずつ指を増やしていく。腰から迫り上がってくる快感に伊勢の眉が歪む。
  「ぁ…はぁ…ぁぁ…っ」
 永井は伊勢から指を抜くと、自身にも手のひらに残った液体を塗りつけた。
  「もう欲しいだろ?挿れるよ」
 永井は伊勢の両膝を胸につけるように抱え上げて、腰を上げそこを露わにすると、指で蕾を拡げ赤く膨れた先端を押し付けた。そしてゆっくりと進み侵入を果たす。
  「あああああーー…っ」
  「えっ、うそ」
 伊勢は、永井が体に入って来たと同時にまた飛沫を撒き散らした。しかしクスリの力は絶大で、まだ伊勢は足りないようだったのだ。
  「ぅ…うっ…ふ…ぅっ」
 入り口をきゅうきゅう締め付けながら、伊勢は顔を腕で隠し呼吸を整えている。
  「伊勢…恥ずかしがらないで…大丈夫だよ?ガマンする必要ないから…また…イきたくなったら…イけばいいからね」
 2度の射精をしてもまだ、力をなくさない伊勢の中心。永井が声をかけると、伊勢は恥ずかしさに唇を噛み締めた。
 永井はゆっくりと進み、最奥へ到達した。
  「…動くよ」
 永井は伊勢の中心を柔らかく握り、止め処なく溢れる雫を塗りつけるように茎を上下に扱きながら、腰は一番太い部分を残し引き抜いた。そしてまた根元まで押し込むと、間髪を入れず入り口近くまで退いた。
  「ぅぁぁぁぁーーっ」
 伊勢は引き抜かれる時の、逆撫でされる感覚の方が快感を感じることを、永井は知っている。
  「気持ちいい?もっと声を出していいよ」
  「…っ…いっ…い…っ…っ」
  「イクの?ちょっと待って…っ」
 さっきはイきたければイけばいいと言っていたくせに、永井は伊勢の根元を指の輪で抑えて射精をせき止めた。
  「永井…っ、ゃ…っ……ぁ…やめ…っ…放せ…っ頭が…おかしく、なる…っ」
  「ん、でも、いっぱい溜めて…思いっきり出した方がイイんじゃない?」
  「ぁぁっ…ぁ…やっ…放…っ放し…て…っ」
 伊勢の懇願を無視して、永井は腰の奥を荒々しく攻め立てる。快感を生み出す場所を何度も何度も擦り、伊勢を追い上げた。抜き差しするリズムが早くなるにつれ、永井にも限界が近づいてきた。
  「ん…っ…伊勢…俺も一緒に、イケそう…っ」
  「あぁぁぁーーーーー…っ」
 突然訪れた開放に、伊勢は背中をのけ反らせて、イヤイヤをするように頭を左右に振った。



  「あの…伊勢」
  「あ゛?なんだよっ」
 不意に訪れた情事の、後片付けは何となく気恥ずかしくて。
  「このクスリは執行部でも…没収できないし…俺が持って帰る…から」
  「お前…。言っとくけどな、俺はもう二度と飲まねーぞっ」
  「あ…いや、別にそんな…」
  『すげえ悦かったくせして今更何言ってんだバーカ!次は足腰立てねーくらい衝きまくってやるからよ!!気ぃ失うまでヤりまくってやるぜ キヒヒ』
  「……なんだと」
  「あ…あの、そこまでは…」
 しどろもどろになる永井だったが、伊勢の逆襲に遭うかもしれないなんてことは、考えてもいなかった。

(2007)




おわり

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